大学院入試体験記(合否が出る前に)
この記事は,東京大学理学部物理学科 B4 の私による,東京大学大学院理学系研究科物理学専攻2023年度入学試験の体験記です.合否が出るとバイアスがかかってしまうので,合否が出る前にほとんどの内容を書いています.
おもしろコンテンツとしての体験記ではなく,後輩(主に内部生)の参考のために書いているものです.他の学科同期たちがおもしろコンテンツをたくさん輩出すると思っているので,そういう趣向をお持ちの方はそちらを参照してください(最後の方で他の体験記を紹介しておきます).
受験校
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻のみを受験しました.以下,紛らわしくない場合には単に物理学専攻と呼びます.
行きたい研究室が物理学専攻で見つかったので受験をしました.本命の研究室一本に絞って集中をしたかったので他は受験しませんでした.学士入学の際も私立大を受験せずに東大一本の受験をしたこともあって,単願に不安を感じることはほとんどありませんでした(複数の研究室を志望できる安心感と,落ちたら地元に帰ろうという気持ちに因ると思っています). https://twitter.com/yetput_ikura/status/1543884126821818369
下調べ
昨年度に同専攻を受験されたたつなさんと伯爵さんの体験記を読みました(もっぴぃさんの体験記を読んだことも思い出した).伯爵さんの体験記(?)は院試とあまり関係のない人でも読めるのでオススメです. note.com note.com note.com
B3 の10月にニュートン・カフェ(物理学科での少人数の交流イベント)に参加し,大本命の研究室が「いつでも見学どうぞ!」と welcome な雰囲気だったので,早速メールを送って1人で研究室見学をさせてもらいました. https://twitter.com/yetput_ikura/status/1446423115160903687
同じく秋に,五月祭企画でお世話になっていた生物物理の研究室をゼミのメンバーと研究室見学しました.
B4 の5月に実施された院試説明会とオープンラボに参加し,志望するいくつかの研究室の方々にオンラインで話を聞きました.オープンラボでの話が面白かった研究室を6月に見学しました.研究室の雰囲気も良さそうだったので,第2志望に決めました. https://twitter.com/yetput_ikura/status/1530420492552704000
志望研究室
第1志望
とても単純な志望理由はアクティブマター物理がしたいということでした.物理学専攻内でアクティブマターをメインに研究できるのはここだけだったので,自然とこの研究室に決まりました.
加えて,おそらく私の中で一番大きかったのは,先生の方針や考え方が自分に合っていると思ったことでした.先生と助教さんに惹かれるようになってから,研究内容にも惹かれ始めました.
第2志望
生物物理にも興味がありました.物理を使って生物を理解することよりも,生物に潜む面白い物理現象を探ることをやりたいと思って,そのモチベーションで第2志望を決めました.ここでもやはり先生と研究室の雰囲気に惹かれたことが大きいです.
第3志望以降
第3志望以降は,自分の興味の度合いでソートしました.正直なところ,第2志望までで通るつもりで出願しました.
出願
物理学専攻には(口述試験をスムーズに行うために)サブコース制度が存在します.A0 サブコースから A8 サブコースまであり,2つのサブコースを志望できます.私は A6(一般物理実験)と A7(生物物理)を志望しました.
選んだサブコースの中で,志望する指導教員を志望順に記入し出願します.志望したサブコース内で4人まで指導教員を志望できます(つまり最大で第8志望まで書けます).A6 では2人の指導教員を志望し,A7 では4人の指導教員を志望しました.
出願の際にはサブコースごとに志望調書を提出する必要があります.「志望理由」と「研究したい内容」を書くことになっていました.指導教員ごとに志望理由と研究したい内容は違うので,何を書けばいいかわからずに,特に A7 の志望調書は A7 全体の志望理由を当たり障りのない感じで書きました.誰にも見てもらうことなく提出してしまったのですが,院試に関わっていない周りの人(助教さんや先輩)にコメントをもらえば良かったなと後悔しています.
事務的なことを言うと,理学系研究科の HP(特に院試周り:修士課程入学案内 - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部)は情報が散らかっていて見にくいことこの上なく,不明な点もいくつかありました.出願書類に関しては学科同期と提出物リストを相互確認し,試験そのものに関しては不明な点をまとめてメールで質問しました(丁寧な返事を頂けました).
筆記試験の対策
セメスターの間は五月祭や特別実験に集中していたので院試の対策はほとんどしていませんでした.8月初旬は北海道旅行にいたので,結果的に2週間で対策をすることになりました.
数学・物理
4時間で物理3問と数学2問を解きます.物理は量子力学・統計力学・電磁気学/解析力学などから出題され,数学は線形代数や複素関数,微分方程式などの物理数学から出題されます.
学科同期たちは過去の物理学演習の問題を解いたり問題集を買ったりしていたようですが,私は過去問しか解いていません.B2, B3 の演習を毎週きちんと解いていれば,過去問を解くだけでもほとんど問題ないように思いました.過去問を解きながら理解の甘いところを復習して対策をしました.
英語
TOEFL ITP テストを利用して行われます.事前に TOEIC や TOEFL を受けておく必要はなく,TOEFL ITP の特別な手続きもありません(出願できていれば OK です).試験時間は2時間でリスニング・文法問題・長文読解と続きます.「合図があるまで次のセクションに進んではいけません」の形式です.
模試2回分がついた問題集を春に買っていました.タイムスリップして,院試前日に問題集を解きました.CD プレイヤーが手元にないことに気づき焦ったのですが,旺文社のアプリ『英語の友』でリスニング音源が聴けたのでことなきを得ました.旺文社やるやん.
筆記試験当日
午前の英語は,形式を知っていたので落ち着いて受験できました.周りはみんな簡単だったとかほぼ満点だとか言っていましたが,英語が苦手な自分にとっては(模試を解いたときと同様)難しく感じました.
午後の物理・数学は例年に比べて超易化していました.特に線形代数の問題,B1 の期末テストかな? 第2問の統計力学の積分で変に煮詰まっていたのですが,後から同期に教えてもらってめちゃくちゃ簡単に計算できることに気づいて少し落ち込みました.後に学科同期の某虎と飲んだ際に,そもそも要素漏れがあったことを指摘され,「じゃあみんな間違っとるやん」と開き直りました.
口述試験
筆記試験の成績が一定水準を超えていれば,口述試験を受ける権利が与えられます.口述試験対象者は筆記試験のおよそ1週間後に発表されます.
口述試験はサブコースごとに行われ,私は A6 サブコースと A7 サブコースを志望したので,2回口述試験を受けました.
物理学専攻の口述試験は守秘義務があるため,どのようなことを聞かれるのかなどについて全く情報がありませんでした.一応,志望調書に田崎晴明著『統計力学I・ II』(培風館)と金子邦彦・澤井哲・高木拓明・古澤力著『細胞の理論生物学』(東京大学出版会)のことを書いていたので,一通り復習しました.それから,志望していた研究室の研究内容に再度目を通しました.
その他
- 筆記試験ではストップウォッチ機能やアラーム機能のついた時計を使えないようだったので,焦ってアナログ時計を用意しました.
- 筆記試験前日に眠れなさすぎて焦りました.その結果筆記試験に3時間睡眠で挑むことになりましたが,どうにかなりました.
- 物理・数学の筆記試験は4時間と大変長いので,試験監督に知らせれば水分補給が許可されていました(参考:物理学専攻修士課程入試(2022年度実施) Q&A — 東京大学理学部物理学科・大学院理学系研究科物理学専攻).試験中はテンションがハイになって一滴も水分を摂りませんでした.
- 筆記試験後の夜,激しい頭痛に襲われて全く眠れませんでした.頭痛は翌日の夕方まで続きました.頭痛が引いたら上野動物園に行きました.
- 口述試験の期間は昼夜逆転しており,眠れませんでした.A7 の口述試験の日は朝6時に海に行って1〜2時間ぐらい磯遊びをしました.ちなみにその日は台風接近の日でした.狂ってる.
後輩へのメッセージ
研究室見学にたくさん行きましょう.B3 の秋から研究室見学に行くのはかなりオススメです.少なくとも志望する研究室はすべて見学しておくべきだと思います(自分は第4志望までしか行っていないが……).
筆記試験については,必修の物理学演習をきちんと取り組んでおけば,直前は過去問を解けばどうにでもなります.競争がもっと激しいところを志望する場合でも,物理学演習を復習しておけば安心だと思います(エアプなのでテキトーを言っています).
合否
運良く第1志望の研究室に合格しました.やりたいことどんどんやるぞ〜! https://twitter.com/yetput_ikura/status/1572741176926810112
他の院試体験記
一つの院試体験記を読むだけだと情報が偏ってしまうので,他の体験記も読みましょう.リストは随時更新します.
2022年
- 院試体験記 - ブログ名(かてくん)
- 院試体験記|たがやし(たがやし:吉田大学・本郷大学)
- 院試体験記|安田講堂(天文学専攻)
- 骨折体験記|LlewkcoR@利き手骨折中(骨折の体験記)
2023年
- 院試体験記 - Qiita(さきさん)
- 進路決定・院試合格体験記(TOEFLポロリもあるよ!) - galaxx’s diary(galax くん:地球惑星科学専攻)
- 院試体験記 - Qiita(🦉くん)
前期教養2S講義の所感
はじめに
こんにちは,いぇと (Twitter: @yetput_ikura) です.夏期休暇も終了し,A セメもスタートを切りました.何となく備忘録の意味も込めて,前期教養の私の 2S をまとめておきます.何らかの形で皆様の参考になると幸いです.
全体を通して
今年度は,大学も COVID-19 の影響を大きく受け,2S 開始は2週間遅れでスタート,ほとんどの講義はオンライン講義となりました.多くの講義ではレポート課題が課されていたようで,私は試験より圧倒的にレポートの方が得意なので非常に楽でした.加えて,三鷹寮*1からの片道1時間弱の通学も消えて,総合してかなり充実した半期だったと思います.大学とは関係ありませんが,バイトはオンライン化が整った5月頃からで,B1 のときに比べてバイトに割く時間も多くなりました(というより,家庭教師の授業準備に時間を吸われました).
講義
各講義を簡単に振り返ります.担当教員で全く色が異なることも多いので,参考程度に(Twitter等でこっそり聞いてくれれば教員名を教えたり教えなかったりします……).
月1 振動・波動論
E 系列.振動・波動について学びます.Fourier 変換も出てきます.理科生の準必修と言われる講義で,受講生は比較的多い印象です.かなり丁寧で,B1 でももちろん十分理解できる話です.1, 2週間に1つレポート課題が出て,講義の理解が深まりました.試験もありました.
月2木2 物性化学
理科生の 2S1 開講必修科目で,週2コマ(月・木)のタームで開講されます.Lewis 構造や混成軌道,π 結合や共鳴,配位結合,分子間相互作用,結晶構造なんかについて学んでいきます.1A の構造化学の講義が身についていると,高校化学の考え方を脱却できて楽しいです.講義後に簡単な演習課題が出されましたが,当日提出なので他の講義の負担にはなりませんでした.
月3 人間行動基礎論(理科生)
D 系列.五感や記憶,意識,社会心理学等を各回で概説.500人程度の大人数が受講して,最初は特に,チャット欄の治安が最悪でした…….錯視がたくさん出て来た記憶ぐらいしかないです.前期教養という感じでした.期末試験は 300~400 字程度の記述が2題+語句で,普通に勉強すれば大丈夫です.
月4 生命科学
理一の 2S1 開講必修科目(1単位).何やったか忘れましたが,高校生物の遺伝情報やらタンパク質合成やら程度のことしか出てきません.理一の生命科学はほとんど計算なので,生命科学というより生命科学計算みたいな感じです(熱力学が少し出てきます).今年度はレポート評価だったので,マジで何やったか覚えてません.
月5 先進科学Ⅳα
E 系列.アドバンスト理科*2と呼ばれる,2019年度から開講されている講義の一つで,20名しか受講できない講義です(初回に選抜試験があります).タンパク質とタンパク質構造解析としての X 線結晶構造解析と Cryo 電子顕微鏡構造解析について結構詳しくやりました.結晶構造解析の回は Fourier 変換がたくさん出て来ました.電子顕微鏡の回はデータ処理のフィッティングの話もやって,結構幅広く構造解析の一連の流れが分かります.かなり楽しい講義です.
火2 量子論
E 系列.量子論の入門です.この講義で初めて量子論に触りましたが,質問に丁寧に答えてくれるのでかなり分かり易かったです.かなりゆっくりめで,何も知らない人にもオススメです.Stern-Gerlach の実験から始まり,必要な線形代数の知識,ブラケット記法等,Schrödinger 方程式や正準変数,固有状態やらをやって最後に具体例として調和振動子と磁気モーメントをやりました.強い人の巣窟だと思っていましたが,別にそんなこともないようで,良い成績が飛んできました.
火5 食の科学
E 系列(ターム).文字通り食についてオムニバス形式で学びます.当然前提知識は要らず,文科生がとりやすそうな E 系列という印象です.旨味の相乗効果の話とか.
水2 英語一列①
1S 開講の必修科目で,再履修です.長文読解の授業,私は英語が苦手なので,毎週全訳してました.言い残すことは何もないです.
水6 先進科学Ⅰα
E 系列.同じくアドバンスト理科の一つです.量子情報の基礎から学んで,IBM Q を使わせてもらって量子コンピュータや古典シミュレーターをいじれます.エンタングルメント,量子テレポーテーションを簡単に扱って,Grover のアルゴリズムや Shor のアルゴリズムといった量子アルゴリズムも学びました.演習課題があって質問も気軽にできるので,初学者ですが理解が深まりました.2S までの講義の中で,個人的に一番面白かった講義です.
木1 常微分方程式
F 系列.常微分方程式をやります.線形代数を結構使って,Jordan 標準形もこの講義で詳しく学びます.レポート課題が個人的にキツかったですが…….真面目にやれば成績来ます.
木5 障害者のリアルに迫る
2単位の主題科目です.毎週色んな方をお招きしてお話を聞きましょうのゼミです.知らないことがたくさん聞けました.出席とリアぺで単位がきます.
金2 現代物理学
E系列.昨年度の同科目を撤退したので再履修です(Python が使えずレポートが書けませんでした,あ〜あ).昨年度はランダムウォークの話が中心でしたが,今年度は四元数から始まり量子論の基本,イジングモデルの話をやりました.さすが駒場の名物講義といった感じです.レポートは自分が学んだことについてまとめれば何でも OK で,控えめに言って神でした.
金34 基礎実験Ⅲ(化学)
理科生の必修で,ターム科目です.オンラインでどう実験するんやと思っていましたが,教員が撮影した実験動画を見て考察を書こうという講義になりました.それはもう基礎実験考察という科目なのではと思いましたが,しょうがないです.実験動画は40分程度にまとめられていて,残った時間は教員が補足をしたり質問したりといった感じです.レポートは翌週提出で結構楽でした(それに比べて基礎物理学実験さん……).
おわりに
B2 にしてようやく,大学の講義を楽しく感じてきました.2S はそれほど忙しくなかったので,ゆっくり楽しいことだけやっていました.あとは,良い機会なので 2S のレポートは全て TeX 打ちして出しました,結構大変でしたが…….B1 は大学入学後ずっとオンラインで大変そうですが,分からないこと等は Twitter に投げるなりして頑張って欲しいものです.
2A から理物の講義が始まりますが,こちらに慣れるのにも時間がかかりそうだなと思っています…….学科の皆さんよろしくお願いします.
最後に,コロナ禍においても学びの場を確保してくださった大学や教員の皆様,2S を共に過ごした友人たちに感謝します.2A も頑張っちゃうか〜.